マッチョ
あたしの隣の席には、毎日決まった時間にプロテインを飲むやつがいる(笑)
そいつは、入社前から、
「今度入ってくるのは筋トレが趣味の面白れーやつらしい」
と噂になるくらいだった。
この他にも、
「面接で着用していたジャケットが、はち切れそうだった」
「最初に受けたライザップに落ちたらしい。それくらいマジなやつだ」
「筋肉とは裏腹に、口下手で人見知り」
など、さまざまな情報が錯綜(笑)
私も、
(恥しがり屋の筋肉野郎だなんて…。興味をそそるなぁ)
と、内心ワクワクしながら、入社の日を待ち望んでいた。
入社の日。
彼は実に端正な顔立ちの美男子だった。
人見知りらしく、顔を真っ赤にしながら、小さい声で一生懸命ご挨拶をしている姿に、とても好感をもったんだよ。
そんな謙虚な姿勢の彼だったが、
噂どおりの鍛え上げた肉体が、
嫌でも彼の存在を際立たせる。
26歳のさわやかイケメンマッチョの登場に、社内の女性陣はにわかに色めきたっていた。
ざわっざわざわ…。
イケメンマッチョは、私が所属する部署への配属となった。
トイレに行くと、仲の良い後輩の女子が私に声をかけてきた。
後輩>
「○○さぁ~ん!!新しく入った方。まじでヤバいです。格好いい!!同じ部署なんですよね。うらやましいです~!」
社内の女性たちの羨望のまなざしに、私は一瞬クラクラきたが、気を取り直して、自分の業務に集中することにした。
それに当時は、私が一番精神的に落ち込んでいた時期。
新人がどうだとか、イケメンマッチョだの、どうでもいいって思ってたんだ(笑)
新たなイケメンボーイの誕生かと思われたが、マッチョは、顔はイケメンなのに、性格は弄られキャラで三枚目。
しばらくすると、さわやかなイメージは崩壊し、
「よう!マッチョ!」
「キンケシ!」
「またトレーニングのこと考えてるのかよ!」
と、庶民的なキャラクターへと変貌を遂げていった。
不器用がゆえ、イケメンな顔立ちを生かすこともできず、自分から話せる話題といえば、筋肉やトレーニングのことだけ(笑)あとは好き勝手に弄られるがままの日々である。
次第に、社内の女性たちに騒がれることがなくなっていったのである。
私はというと同じ部署ということもあり、日々の業務や数々の飲み会を一緒にする中で、どんどん気の会う友達のような関係性に発展していった。
比較的人見知りな私も、マッチョに対してはフラットに接することができるので、非常に楽なのである。
同じ喫煙者同士、外の喫煙所などで会うと、
私>
「ちーっす。」
マッチョ>
「よう。」
みたいなゆるーいノリでご挨拶(笑)
私はマッチョのことを「お前」と呼ぶ。
マッチョは最初こそ遠慮してたものの、突っ込みの際には私のことを「お前」と呼ぶようになってきた。
お前と、お前の仲である(笑)
1年ほど前。
マッチョの直属の先輩が退職することになった。
急遽、私とマッチョでその方の退職のプレゼントを買いにいったことがあったんだ。
ひと通り買い物が終わった後、2人で飯を食いにいったんだけどさ。
その時、マッチョがいったんだよ。
私>
「なんで筋トレはじめたの?」
マッチョ>
「いや~俺。口下手だし、趣味もないし、ひ弱だしで、何か自信が持てることがほしかったんですよねェ。たまたま筋トレをし始めたら、日に日に鏡にうつる自分が変わっていくんですよ。そうしてる内に鏡みるのが楽しくなっちゃってw やっぱり大会とか出てみたいです!」
マッチョの本音をきけた夜だった(笑)
何はともわれ、これをやってたら楽しい!っていうものがもててるのは素晴らしいことである。
それがマッチョは、筋トレだったんだなとしみじみ感じ、マッチョの活躍を人知れず応援するようになったんだ(笑)
マッチョはどんどんマッチョになり、去年の終わりに開催されたボディビル大会に出場するまでになった。
おしくも予選落ちの結果となったが、マッチョから見せてもらった写真には、輝くばかりのとても良い笑顔のマッチョが写っていたwww
今年はマッチョにとって、二回目の大会出場を控えてる。
つい2週間ほど前に、マッチョは私にこういった。
マッチョ>
「俺、来週から減量はじめるから。大会に向けて身体絞る」
私>
「そうか、頑張れよ。ちなみにおれは今日ラーメンを食いにいってくるからな」
マッチョ>
「そうゆうの言わないで~(涙)」
wwwwwww
今日もマッチョはプロテインを元気に飲み干している。
頑張れマッチョ!
今年は本線出場をかけてな!!